手掌多汗症とはPalmar hyperhidrosis
交感神経が高ぶった状態により、手のひら、わき、足裏に過剰な発汗をきたす疾患です。原因不明とされ、全国で人口の約2%の患者がいるといわれています。
症状は手のひらにじんわりと汗が出る程度からぽたぽたと水滴が落ちてしまう状態まであり、緊張すると症状として現れます。
発汗の種類
汗には3種類あります。
01温熱性発汗
暑い時や運動時に顔や
体全体からでる汗が
温熱性発汗で普通の汗です。
02味覚性発汗
辛いものや熱いものを
食べるときに主に顔から
出る汗が味覚性発汗です。
03精神性発汗
緊張した時に手のひら、
わき、足裏のからでる
汗が精神性発汗です。
精神性発汗は交感神経が関与しています。交感神経が過剰に作用し、
手のひらから過剰な汗がでる疾患が「手掌多汗症」です。わきや足裏の過剰発汗も伴います。
睡眠中は交感神経が休んでいますので、朝起きた瞬間だけは手のひらはサラサラしています。
このようなお悩みを抱えていたら
手の汗で来院される患者様は以下のような悩みを抱えていらっしゃいます。
あなたもこのようなことに心当たりがあったら一度相談してください。
- ノートやテストの紙が濡れてしまう。
- パソコンのキーボードがベタベタする。
- 握手ができない、手をつなげない。
- 手が滑って鉄棒がうまくできない。
- コンビニのレジでお金を払ったり、
おつりをもらう時に店員さんと
手が触れるのが困る。 - 手や足裏の臭いが非常に気になる。
手汗・多汗症の自己チェック方法Self-check
手汗・多汗症かどうかをチェックする方法をご紹介します。
小さい頃から悩んでいた方やご自分では当たり前と思っていたことが周りの方の反応で気付くなど
症状を自覚するケースは様々ですが、症状の程度には段階があります。
これを把握していただいてご自身の状態をチェックしていただければと思います。
重症度を判定するHDSS
手汗・多汗症の重症度を自分でチェックする方法に
HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)というものがあります。
これは自覚症状のレベルに応じて重症度を判定する指標です。
- Level.01発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
- Level.02発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
- Level.03発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
- Level.04発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
3および4は重症多汗症と判定されます。
また、重症度を判定する指標で以下も参考になります。レベル3になるほど重症と考えられます。
軽く湿っている程度で
見た目にはわかりにくく、触ると
汗ばんでいることがわかる状態。
水滴ができるほどではないですが
汗で肌がテカっているように見えます。
水滴ができているのが
見た目にもハッキリとわかる。
濡れている状態ですが
汗が流れ落ちるまではいかない状態。
水滴ができ、
汗がしたたり落ちる。
治療方法Method of treatment
治療方法には、内科的治療と外科的治療の2種類あります。
患者様のお話を聞き病状を診察させて頂いた上で、どちらの治療方法が適切かを判断します。
01外科的治療
低位交感神経遮断術(低位ETS)
当クリニックでは、手のひらの汗を支配する第2~第4交感神経のうち、
第4交感神経(第4肋骨の高さで神経切離)を遮断する手術を行っています。
多汗症手術の世界的権威であるDr. TelarantaとDr.Linの説では、
高位の神経を遮断するほど代償性発汗は高度になります(R2>R3>R4)。
一方、手のひらの汗は高位の神経を遮断するほど減少します。
この相反する二つのバランスをいかにうまく調整するかが重要です。
- 第2交感神経(R2)の遮断では,てのひらの汗がまったくでなくなり、代償性発汗が高度です。
第2交感神経は遮断すべきではありません。 - 第3交感神経(R3)の遮断では、てのひらの汗がほぼ完全にでなくなる一方、代償性発汗が多く出ることもあります。
- 第4交感神経(R4)の遮断では、てのひらの過剰発汗が停止し、ほぼサラサラになります。
代償性発汗の程度は個人差がありますが、R2遮断、R3遮断よりも少なくなります。
代償性発汗とは
外科的治療は手のひらの汗がほとんどなくなるため、患者様の満足度は高い方法ですが、高い確率で「代償性発汗」が認められます。代償性発汗とは、術後に頭部や胸、背中、太ももなど他の部位への発汗が増加する現象をいいます。汗の量や感じ方には個人差がありますが、これまでに当クリニックで行ったR4遮断の患者様、約8000人のうち、私が知り得る限りで少なくとも20人以上(全体の0.3%)の患者様は、暑い夏に自分が予想していた以上に背中や胸、ふとももから汗が出るようになったといって手術を後悔されています。
当クリニックでは、この代償性発汗を少しでも抑えるため「低位(R4)交感神経遮断術」を実施。手術内容や仕組みについて、納得いただけるまで丁寧に説明いたします。大事なのはアドヒアランス、つまり医師から得た情報をもとに、患者さんが主体性を持って治療内容を選択することです。患者さんが望む治療を、私たちと一緒に考えていきましょう。
手術の内容
手術当日朝入院し、当日午前中に手術、当日午後に退院する日帰り手術です。全身麻酔を行い、わきの部分より3mmの胸腔鏡を用いて手術をします。手術時間は片手で5分以内、両手で10分以内です。手術直後から手のひらの汗は消失し、サラサラになります。キズは小さく、テープで固定しますので抜糸や消毒の必要もありません。術後3~4時間で退院でき、翌日からシャワー、翌々日から入浴可能です。遠方の患者様は手術翌日、近郊の患者様は1週間以内に再来していただきます。わきのキズ跡はほとんど残りません。
当院での手術方針
代償性発汗の部位や量には個人差がありますが、100%の患者様に出現しますので、この手術はいかに手のひらの汗で長い間悩んでおられたかが手術の適応となります。代償性発汗で手術を後悔しないためには手術を両側同時にするのではなく、片方ずつ慎重に行う方法があります。片側手術では代償性発汗は両側手術の半分の量になりますから、いきなりブラウスやズボンが濡れるような発汗量ではありません。まずは利き手の手術を行い,自分の代償性発汗の量,部位を納得してから反対側の手術をするかどうかを慎重に判断すれば、代償性発汗を体験してから反対側の手術を受けることになり、後悔するリスクを避けることができます。 まずは患者様の悩みをしっかりとお聞きし、片側だけ慎重に手術をするか、一度に両側の手術をするのか、患者さんが望む治療を、私たちと一緒に考えていきましょう。
多汗症手術のメリットとデメリット
- 手汗はサラサラになります。
- 代償性発汗は多かれ少なかれ100%に出現します。代償性発汗の発汗部位も発汗量も個人差があります。
- わき汗の効果は8割程度、足汗の効果は1割程度です。手ほどサラサラになるわけではありません。
- 熱いものや辛いものなどを食べたときに顔から出る汗(味覚性発汗)が増加することがあります。
- 手術とは直接因果関係がないような精神的な不定愁訴、うつ状態、心因反応が増悪することがあります。
手術前の手汗量
手術前の手汗量(赤:右手、青:左手)右手:Ave 1.021 mg/cm2・min
Max 1.448 mg/cm2・min
左手:Ave 1.013 mg/cm2・min
Max 1.440 mg/cm2・min
SKN-2000M Perspiration Meter(SKINOS)
手術後の手汗量
手術後の手汗量(赤:右手、青:左手)右手:Ave 0.152 mg/cm2・min
Max 0.166 mg/cm2・min
左手:Ave 0.102 mg/cm2・min
Max 0.116 mg/cm2・min
SKN-2000M Perspiration Meter(SKINOS)
02内科的治療
まずは塩化アルミニウムの塗り薬が推奨されます。わき汗にはそのまま塗るだけで有効ですが、手の平や足裏の場合は薬液の上から被覆材で密着させる方法が必要です。
わき汗には抗コリン剤の塗り薬も保険適応されました。手や足に電流を流すイオントフォレーシスも保険適用の治療法です。ボトックス注射はわき汗には保険適応ですが、手汗などには保険が適応されず、効果も一時的ですので、費用対効果は低いと思われます。
多汗症に適応がある内服薬は抗コリン剤で空腹時に服用すると効果が期待できます。その他、漢方薬は体質に合わせて使用します。
以上の治療法でも十分な効果がなく、患者様の手の汗の悩みが強い場合にのみ、胸腔鏡による交感神経遮断術が選択されます。
予約から手術終了までの流れflow
01.予約
お電話で予約を受け付けています。(診療日8:30~17:30)
遠方患者様の対応:東京など遠方にお住まいで何度も往復するのが大変でしたら、外来受診時に手術の説明と検査を行った後、翌日の午前中に手術を行います。さらに手術翌日午前中に再度診察が必要ですので福岡には2泊3日となります。その間は当院近くの提携ホテルや福岡市内のホテルなどに宿泊してください。
まだ手術を決めかねている患者様や遠方からお越しなる患者様で仕事や学校の都合などで2泊3日が無理な場合は、まず初診外来で手術の説明を十分に聞いて、手術を受ける場合には術前検査を済ましておき、あらためて別の日に午前中手術、翌日診察の1泊2日となります。
02.外来初診
- 検査、処置を行います(胸部X線・心電図・肺機能検査・採血 など)。
- 医師、コーディネートナースからの説明。
- 手術前2週間は禁煙していただきます。
03.手術前日
- 夜9時以降は絶食になります(お水、お茶は飲めます)。
- 以下をご準備いただきます。
- バスタオル
- 入院診療計画書・入院治療計画書
- スリッパ
- 保険証
- 髪ゴム(髪の長い方のみ)
- お薬手帳
- 同意書(個室の方は個室利用に係る同意書)
04.手術当日
お化粧はせずに、絶食のまま来院していただきます(手術2時間まで軽い飲水は可能です)。
手術前
病衣に着替えをしていただきます。
点滴を行います。
この間も絶食になります。
以下の注意点があります。
- メガネ、コンタクト、指輪、時計、義歯、ヘアピン、アクセサリーなどは外してください
(貴重品は鍵付きの個人ロッカーに収納します)。
手術後
検温、血圧測定を行います。
帰室2時間後に胸部X線を撮ります。
手術後に病院から軽食をお出しています。その後に一回分の薬を服用していただきます。
夕食より普通食を召し上がっていただけるようになります。
05.退院後
胸や背中の痛みがあります。2週間ほど続く場合もありますが、自然に軽快します。
飲み薬を服用していただきます。
手術翌日よりシャワー、翌々日より入浴ができます。
激しい運動、喫煙は1週間控えてください。
06.再来
胸部X線検査、採血を行います。遠方の患者様は手術翌日、
近郊の患者様は1週間以内に再来していただきます。
※上記流れは一般的なものです。患者様の状態によっては、多少変動する場合があります。
費用
当院での多汗症手術費用は健康保険適応で3割負担の場合、約8~9万円です
(高額医療の限度額を越した金額は後で返金されます)。
クレジットカードでのお支払いも可能です。
また、日帰り入院(1日入院)での手術ですので、
生命保険の入院給付金や手術給付金の対象
(手術名:胸腔鏡下交感神経切除術手術名手術、コードK196-2)です。
※片手手術も両手同時手術も同額です。
医院・医師紹介About
医師紹介
長い間、手のひらの汗でお悩みであったこととお察し申し上げます。多汗症の悩みはご本人にしかわからない深刻な悩みです。まずは外来で患者様の悩みを親身になってお聞きします。それから一番適した治療法を選択していただきたいと思います。
20年以上前から多汗症治療を専門に取り組んできました。これまでに勤務医時代を含め12,000例以上の多汗症手術の経験があります。多汗症治療の国際学会である国際交感神経外科シンポジウム(International Symposium of Sympathetic Surgery, ISSS)では、日本における多汗症治療の現況を2003年から8回連続して論文発表しています(2年毎に開催)。2015年10月にISSS理事となり、2018年4月に第12回ISSSを福岡で開催しました。この第12回ISSSでは世界各国から専門医が福岡に集まり、日本からも生理学教授、神経内科専門医、皮膚科専門医が多数参加し、多汗症の基礎的メカニズムの研究など、将来の展望について議論しました。2019年10月からISSS President(学会理事長)を務めています。
当院は日帰り手術を専門とした外科クリニックです。手汗の多汗症の手術のほか、下肢静脈瘤、胆石症、大人や子供のそけいヘルニア、痔疾患を中心に、2007年10月~2023年10月までに日帰り手
当院ではお忙しい方のために、土曜日、日曜日の手術も行っています。また、関東や関西などの遠方からも患者様にお越しいただくため、提携ホテルをご用意するなど、患者様のご負担を軽減できるよう努めています。
診察、手術、手術後のフォローまで、院長の私と副院長、日帰り手術コーディネーター(薬剤師、看護師)のスタッフがチーム医療で対応いたします。
学歴
- 1976年3月
- 福岡県立修猷館高校卒業
- 1983年3月
- 九州大学医学部卒業
- 1983年4月
- 九州大学第一外科入局
- 1991年6月
- 医学博士(九州大学)
- 1992年9月
- 米国アルバート・アインシュタイン
医科大学肝臓研究所留学 - 1994年12月
- 帰国
職歴
- 1983年6月
- 九州大学附属病院第一外科研修医
- 1984年4月
- 浜の町病院外科・麻酔科研修医
- 1985年4月
- 九州労災病院外科
- 1988年4月
- 九州大学附属病院第一外科医員
- 1990年12月
- 北波多村立病院病院長
- 1992年9月
- 米国アルバート・アインシュタイン
医科大学研究員 - 1995年1月
- 九州大学附属病院第一外科医員
- 1995年1月
- 唐津赤十字病院外科
- 1996年4月
- 福岡逓信病院外科
- 1998年4月
- 直方中央病院消化器外科部長
- 1999年4月
- 原土井病院外科部長
- 1999年10月
- 佐田病院外科医長
- 2007年4月
- 高森医院院長
- 2007年10月
- おだクリニック日帰り手術外科開業
所属学会・専門医資格
- 日本外科学会
(認定医,専門医,指導医,外科専門医制度関連施設) - 日本脈管学会
(専門医,指導医,日本脈管学会認定研修関連施設) - 日本静脈学会
(下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医,実施医,実施施設) - 日本消化器外科学会
(認定医,専門医,指導医,消化器がん外科治療認定医) - 日本臨床外科学会(評議員)
- 日本内視鏡外科学会(評議員,技術認定医)
- 日本乳癌学会(認定医)
- 日本ヘルニア学会(理事)
- 日本大腸肛門病学会
- 日本発汗学会
- 日本臨床肛門病学会(認定医)
- 九州外科学会(評議員)
- 日本短期滞在外科手術研究会(世話人)
- 日本胸腔鏡下交感神経遮断研究会
- 内痔核治療法研究会
- 九州ヘルニア研究会(世話人)
- International Society of Sympathetic Surgery
(理事長President, Board Member) - Asia-Pacific Hernia Society (Life Membership)
医院紹介
医療法人斉智会
おだクリニック日帰り手術外科
住所 | 〒810-0011 福岡県福岡市中央区高砂1-8-8 サンクス渡辺通3F, 4F |
---|---|
TEL | 092-534-7507092-534-7507 |
FAX | 092-534-7508 |
※当院クリニックビル1階に2台のコインパーキングあり
(当院受診の方には1時間分のコインを差し上げます)
ホテルニューオータニ博多から渡辺通りを南に下ってすぐのFM福岡の対面のビルです。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 第1.3.5日曜 | 第2.4日曜・祝日 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
08:30~17:30 | / | / |
※午前中は手術のため、新患外来は原則として午前10時、
再診外来は午前8時30分からとなります。
※平日のみならず、週末を利用して日帰り手術をお受けになれます。
※学会出席などで診療日、休診日が変更になることがあります。
必ず電話でご確認ください。
よくあるご質問Q&A
手掌多汗症に関するご質問
当院での多汗症手術の費用はすべて保険適応で3割負担の場合、約8~9万円です。片手も両手も同額です。両側手術と片側手術にはそれぞれ長所と短所があるため、当院では原則として両側の同時手術行うか片側だけの手術を行うかは患者様に選択していただいています。クレジットカードも使用可能です。生命保険の手術給付金の対象です(胸腔鏡下交感神経節切除術)。
わきの汗はおもに第4~第5胸部交感神経で支配されます。最近の知見では、わきの汗の交感神経は細かい枝分かれ(バイパス)が豊富なため、交感神経を完全に切除することがポイントです。
わきはもともとジメジメした部分ですので、完全には汗が停止しないこともあり、少しは汗が残ることがあります。数年後の再発率も手に比べ高くなります。第4~第5の低位の胸部交感神経ですので、代償性発汗は少ないものの、必ず代償性発汗が出現します。したがって、わきの汗が一番気になり、てのひらの多汗がない方は、交感神経切除術よりも美容整形外科が行うわきの汗腺切除術(ワキガ手術と同様の手術)をお勧めします。わき汗だけの場合は交感神経遮断の適応にはなりません。
足の裏の汗は腰部交感神経支配ですが、胸部交感神経遮断でもほぼサラサラになる患者様が1割程度、少し減少する患者様が3~4割程度です。しかし逆に言えば半数以上の患者様で足の裏の汗にはまったく効果がありません。また胸部交感神経遮断後にむしろ足の裏の汗が増加した患者様も7%いらっしゃいました。
足の裏の汗が気になる場合は、開腹もしくは腹腔鏡を用いた腰部交感神経遮断やアルコール注入による腰部交感神経神経ブロックなどの手段がありますが、日本ではほとんど実施されていません。足の汗は塩化アルミニウムローションや汗の吸収性のよい靴下を履くなどなどで対応するしかないと思います。
頭・顔面の汗は第2胸部交感神経で支配されます。高位の交感神経遮断でも顔の汗に対する効果は8割程度で、さらに術後の過剰な代償性発汗は必ず出現するため、手術を後悔される方の頻度が高くなります。したがって頭・顔面多汗に関しては、仕事上きわめてお困りの方のみに限定して手術を行うべきです。
当院では原則として手術は選択せずにまずは抗コリン剤などの内服薬をお勧めしています。それでも手術を希望される患者様には第2と第3の間をクリップで遮断する手術を行っていました。
これまでに当院で顔面多汗症または赤面症でクリップ法による高位の交感神経遮断を行った患者様は約30人でそのうち3人の 患者様は過剰な代償性発汗で手術を後悔し最終的にクリップを除去しました(クリップを除去しても遮断前の状態まで完全に戻るわけではなく、クリップ除去には癒着や出血などで手術が困難となることもあります。さらにクリップ法は出血のリスクがあるため、現在は当院ではクリップ法は行っていません。)
当院の治療方針としましては、顔面多汗症、赤面症の患者様には交感神経遮断手術はお勧めしておりません。
それでも手術をご希望される患者様には当院では顔面多汗症に対しては第3交感神経を遮断しますが、代償性発汗で後悔しても元には戻りませんので、まずは片側を手術して、その結果、片側の顔の顔面多汗症の効果あり、かつ代償性発汗が許容内であれば十分に経過をみてからさらに反対側の追加手術を慎重に検討します。
片側だけの交感神経遮断では当然のことながら、片側しかてのひらの汗が停止しませんが、代償性発汗の量は半分で済むため、まずは片方だけ手術を受けてみるという慎重な考え方があります。
手術時間は片側5分、両側10分でいずれも短時間です。片側でも両側でも手術費用は同じですので、片側ずつ2回手術をお受けになる場合は患者様が負担する費用と日数が2倍になります。
両側手術と片側手術にはそれぞれ長所と短所があるため、当院では原則として両側の同時手術行うか片側だけの手術を行うかは患者様に選択していただいています。代償性発汗には個人差があるため、まずは利き手を手術し、代償性発汗の程度を自覚してから、あらためて他方の手の手術を受けるどうかを判断すれば、少なくとも過剰な代償性発汗で後悔するリスクを避けることができます。しかも利き手がサラサラになれば精神的にもリラックスできるため、3割の患者様では反対側の手の汗も減少しています。
顔面多汗症や赤面症の患者様では高位の第2交感神経を遮断する必要がありますが、赤面症に対する交感神経遮断術の効果は客観的な評価が難しく、有効率は確定しておりません。また、高位の交感神経を遮断すると過剰な代償性発汗が100%出現します。
当院の治療方針としましては、顔面多汗症、赤面症の患者様にはこの手術はお勧めしておりません。
それでも手術をご希望される患者様には当院では赤面症に対しては第3交感神経を遮断しますが、代償性発汗で後悔しても元には戻りませんので、まずは片側を手術して、その結果、赤面症に効果あり、かつ代償性発汗が許容内であれば十分に経過をみてからさらに反対側の追加手術を慎重に検討します。
低位(R4)交感神経遮断でも、夏の暑いときや寝汗で背中や胸、ふとももなどからの汗がこれまで以上に必ず増加します。しかし一般的に誰でもマラソンをしたり暑いときは顔などから多量の発汗があります。したがって低位交感神経 遮断を受けた患者様に夏の暑いときなどに体の一部から汗がでるのは正常な反応であり、これらの汗は代償性発汗というよりも反応性発汗という言葉が用いられます。
代償性発汗は高位の交感神経遮断ほど多量に発生し(R2>>R3>R4)、複数の交感神経節を遮断するほど増加します。したがってR4単独遮断が最も代償性発汗が少なくなります。
これまで当院で行ったR4遮断8500例以上の患者様では、ほとんどの患者様が夏の暑いとき以外では背中やふとももの汗はほとんど気にならない程度の発汗量です。国際学会においてもTh4遮断では高度の代償性発汗はほとんどおこらないことが証明されています。
しかし代償性発汗には個人差があります。これまでに私が知りうる限りで少なくとも20人以上(全体の約0.3%)の患者様が、Th4遮断でも自分が予想していた以上に代償性発汗が多かったとの理由で手術を後悔した患者様がおられます。
多汗症手術には代償性発汗というデメリットが100%ありますので、手術の選択はいかに手の汗で長年悩んでおられるかです。
味覚性発汗といって辛い物や熱いものを食べたときに顔からの発汗が増加することがあります。Th1神経節(星状神経節と癒合)を遮断するとホルネル症候群(おもな症状は眼瞼下垂:まぶたが下がってしまう状態)がおこりますが、R2遮断やR3遮断でもまれにホルネル症候群の合併症が報告されています。永久的な合併症ですので絶対に避けなければなりませんが、R4神経節は星状神経から離れているため、私が知る限りR4遮断ではホルネル症候群の合併報告はありません(詳しくは2007年国際学会のページ)。交感神経遮断で徐脈になることがまれに報告されていますが、私がこの手術を始めた初期の200例の患者様に手術前、手術後に心電図検査をおこなったところ、どなたも心電図上の変化はありませんでした。しかし徐脈になる心疾患(洞不全症候群など)を合併している患者様では交感神遮断手術は避けるべきと考えます。その他、手術後に多様な不定愁訴(頭痛、顔の紅潮、寒気、気力の低下など)、心因反応?、うつ状態?を訴えた患者様もおられましたが、精神的な要因が強く、手術との直接的な因果関係は不明です。交感神経遮断には代償性発汗など患者様のデメリットになる要素がありますので、患者様に手術前に十分なインフォームドコンセントを行い、治療方針を決定させていただいています。
これまでにR2遮断やR3遮断手術後に神経が再生し再発することが1~5%と報告されており、これまでの私自身の経験での再発率は1~2%ほどでした。R2遮断やR3遮断とR4遮断では再発率に差はなく、当院の17年間のデータ(8500例)ではR4遮断後に再発または手の汗が少しでるために、1年~数年後に再手術をお受けになった患者様は111名(全体の1.3%)です。
R4遮断では手のひらの汗が停止するギリギリの高さですのでTh2遮断やTh3遮断よりも再発率が高くなることが危惧されますが、これまでの当院の経験では再発率は1.4%であり、高位神経遮断の再発率と差はありません。
R4遮断後に再発した場合は再手術でR3を追加遮断します。再手術によ り手のひらの汗は再度減少します。再手術でR3を追加遮断すると代償性発汗も増加しますが、R4遮断で再発した患者様は手の汗が停止する高さがR4 よりも少し高位にあると考えられ、その場合はR3遮断を追加しても顔の汗はきちんと出ることにより代償性発汗の増加は抑えられることになります。
逆に他院でR2もしくはR3遮断を受けて再発した患者様には当院での再手術でR4を追加遮断しています。
代償性発汗の詳しいメカニズムは解明されていませんが、視床下部という脳の一部からフィードバック現象で代償性発汗が起こるといわれています。
人間のからだは頭(脳)を第一に守るよう制御されています。マラソンなど激しい運動したときや夏の暑いときにまず最初に顔や頭から汗がでるのは、頭に熱がこもらないようにコントロールされているためです。高位の交感神経とくに第2交感神経を遮断すると頭や顔から汗がまったくでなくなりますので、熱から脳を守るため視床下部からもっと汗を出すように命令がでます(フィードバック現象)。ところがいくら命令がでても顔や頭からは汗がでませんので、少しでも熱を発散するために背中や胸、ふとももなどから汗がでるようになります。しかし頭は熱がこもったままですので、もっと汗をだすように視床下部から命令が出続ける結果、背中などに過剰な代償性発汗が生じることになります。
以上のように頭から汗をだすことはからだのバランスを保つ上で極めて重要なことです。第4交感神経遮断では顔や頭の汗が減少することはほとんどありませんので、過剰な代償性発汗がでることはありません。
しかし第4交感神経遮断でも顔の汗がまったく減少しないわけではなく、代償性発汗は100%の患者様に出現しますので、この手術をお受けになるかどうかは、いかに手のひらの汗で悩んでおられるかです。
お子様の手術は原則として大人の体になってから、具体的には中学生以上でお勧めしています。しかし小学生でも本人が非常に気にしていたり、友達から手をつなぎたくないと言われいじめの対象になっている場合などは手術を行っています。
当院ではこれまでに8歳から78歳の患者様に多汗症手術を行っています。お子様が小さい間は、このままご両親で見守っていて差し上げるのが一番だと思います。
日帰り手術に関するご質問
2007年10月に開院以来、2024年7月までに3万例以上の日帰り手術の実績があります。1990年代より痛みが少ない低侵襲の手術法や麻酔法が進歩し、日帰り手術は可能になりました。当院ではできるだけこの進歩に対応し、より新しい技術を導入するよう努めています。安心して日帰り手術を受けていただけるようにこれからもスタッフ一同で取り組んでまいります。
患者さまご自身が、日帰り手術について十分にご理解いただくことが治療のスタートです。状態に応じた適切な治療法に関するインフォームド・コンセントを行い、ご本人およびご家族の同意のもと、日帰り手術を決定します。
遠方の患者様では手術当日も福岡市内に滞在していただき、翌日診察後にご帰宅いただきます。通常は、術後1~2回は再来をお願いしていますが、遠方の患者さまの場合は、お電話で状態をご連絡頂くか、または必要に応じて院長または当院の専任コーディネーターによる電話訪問を行います。
当院では24時間体制で、緊急連絡をお受けしています。痛みや発熱など、不安なことがあれば、いつでもご連絡ください。
まず、患者さまのメリットは、入院のわずらわしさがなく、日常生活の延長線上で手術をお受けになれることです。多忙なビジネスマン、OL、自営業の方、小さなお子様やお年寄りを抱えた主婦の方々にとって、拘束時間を短縮できることが大きなメリットです。保険者(社会保険、国民健康保健)のメリットとして、入院費の医療費が削減される分、国が推し進める国民総医療保険料を抑えることが可能となります。クリニック側のメリットは、入院手術と同等の質の医療を、日帰り手術で提供することで、患者様に選んでいただけるクリニックを実現することができます。すなわち、患者様、保険者、医療サイドにメリットがあります。
まずは、外来受診をしていただきます(原則として予約制です)。遠方から来院される方の場合、前もってご連絡いただければ、外来受診後の翌日に日帰り手術(当院から徒歩5分以内の提携ホテルに前泊・後泊)を行うことも可能です。
※痔疾患などで状態によっては日帰り手術の不適応な場合があります。したがって遠方の患者様でもまずは外来で診察をした後にその状態に応じた治療法を選択していただき、あらためて手術日をお決めになることをできるだけお勧めします。遠方の患者様では手術当日も福岡市内に滞在していただき、翌日診察後にご帰宅いただきます。福岡近郊の患者様は手術当日にご帰宅して、できるだけ早め(原則として術後1週間以内)に診察いたします。
当院は原則として日帰り入院(1日入院;朝入院,夕方までに退院)となり1泊入院ではありません。手術当日の朝入院し、当日の夕方までに退院します。遠方の患者で様は、手術当日の夜にはホテルなどに1泊し、手術翌日の午前中に診察後に帰宅していただきます。基礎疾患や病気の程度により、術後に短期入院が必要なケースでは、手術後に関連病院に転院し、数日間入院していただくこともあります。
当院は福岡市の中心、渡辺通に位置し、福岡空港や博多駅からも地下鉄やタクシーなどをご利用していただければ10~30分で来院できます。当院から徒歩5分以内にある提携ホテルなどに前泊・後泊してください(ホテルのご予約はご自身で行って頂くようお願いします。ご予約時に提携料金をご確認ください)。初診外来翌日に手術、手術後も1泊していただき、翌日午前中に診察して帰宅していただきますので2泊3日になります(福岡までの往復が可能であれば、遠方の患者様でもまずは外来で診察をした後にその状態に応じた治療法を選択していただき、あらためて別の日程で手術日をお決めになることをお勧めします)。遠方の患者様の場合は、手術翌日の診察以後はお電話で術後の状態を確認しています。
外来初診は患者様の状態を診察し、手術をご希望されれば、術前検査と日帰り手術の流れを説明いたします。当院では安全管理を重視して、初診当日に手術を行うことはありません(肛門周囲膿瘍切開など同日に処置をする場こともあります)。遠方からご来院の患者様では何度も往復するのは大変ですので、通常は外来受診の翌日午前中に手術を行い、手術当日も1泊し翌日午前中に診察して帰宅していただきます。したがって福岡には初診、手術、翌日再来で合計2泊3日になります。手術前後は当院近くの提携ホテルなどに宿泊していただいています。手術後はお電話やメールで術後の状態を確認させていただければ、遠方の患者様の場合はそれ以後の再来の必要もありません。
当院で行う手術は、術後に消毒などの創処置は必要ありません。きずが小さいのでカーゼなども必要ありません。早期にシャワー浴、入浴も可能です。
特別な基礎疾患がなければ、日帰り手術は可能です。高齢者の場合は、入院により一過性の精神障害や認知症が進行することがあり、日常生活の延長としての日帰り手術のメリットは大きいと思われます。ただし、身の回りの世話をするご家族の方などの協力が不可欠です。おひとり暮らしの高齢者の方には、日帰り手術はお勧めできませんが、手術後の数日間だけでもご家族の方が付き添われたり、随時様子を伺っていただければ日帰り手術は可能と思われます。
手術当日は車の運転はできません。公共機関をご利用ください。